子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

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大学2年(1回目)の時に指輪を買った。それがありえないくらいフィットして、アクセサリーの神秘的ともいえる魅力を初めて知った。それからの数年間はずっと右手の中指にその指輪をつけていて、就職した今も休みの日になるとつける。無くても困らないけどあると安心する。

1年前の今日、内定が出ていた。どんな会社であれとりあえず社会に参加できることが嬉しかった。この1年はいかにして社会人になるか、それしか考えてこなかった。でもそろそろもう一つ次のことを考えたい。

大企業に入った友人の話をどこか遠くで聞いていた。自分がそんな環境に行けるとは端から思っていないけど、でももしかしたら行きたいのかもしれない。こんな田舎に生まれて、意外と都会の大企業で働いてみたいのかもしれないとこの年でようやく気がつく。気づくのが遅すぎるし、必要なものは何一つ持ってないけど、そういうことを考えてみてもいいのかもしれないと思いながら新居の契約書類を書いた。今の会社をあと数年で辞めると決めているのにこのタイミングで一人暮らしを始めるなんて、何がしたいのか分からないと我ながら思う。でもやりたいことを一つずつ叶えてみるのだって立派な夢だとも思う。何でもやってみたい。何を失っても、と書いて、何も持っていないのだと思い直す。希望と絶望が同時に来る。何も持っていないから行ける場所もあるのだと、敢えて思う。