子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

11.24

結婚した。夢にまで見た両思いMAX状態だ。街ですれ違う人全員に知らせたい。大好きな人と結婚しました。

前に付き合っていた人と別れた時、また誰かと一からここまでの関係を築かなければいけないということに気が遠くなって、でも私はまた懲りずにそういうことをするんだろうとぼんやり予感していた。しかし夫になった人とかつての恋人と同じ地点までたどり着いたかと言われればあまりそうは思わないのが不思議なところだ。そもそものモノサシが全然違うような気がする。同じ恋人という関係でも相手が違えば違う関係になるということも、今回夫になった人と付き合うまでよく知らなかった。今までとは確実に違う関係が築けたから結婚に踏み切ったのかもしれなかった。

結婚話が出てから籍を入れるまであまり時間がなかったが、やることが多く長い道のりだった。毎日祈るように暮らしていた。

結婚準備の中で、親の初めて見る顔をたくさん見た。嬉しかったことより腹が立ったり悲しくなったりしたことのほうが多かった。この期に及んでまだ感動的な言葉を期待しないわけではなかったが、やっぱりこんなもんだと思った。私たち家族はお互いが何歳になってもこうやっていくしかないんだと諦めがついた。実家から帰って何度も親に言われたことやその時の顔を思い返した。生まれた家族とは別に新しい家族を作れるのが新鮮に嬉しかった。

相手の家族にも思うことがないではないが、私もきっとそう思われている。折り合いをつけてやっていくしかないんだろう。向こうのお母さんに言われたことを、自分の親に言われたかったと思った。彼に「自分の親に言われなくても、言われたことは自分のものにできるよ。そしたら次は自分の子どもにそういうことを言ってあげられるよ。」と言われて、全てをちゃんと覚えておこうと思った。

人生で一番辛かったとき、誰も助けてくれなかった。産まれて初めて親に必死でSOSを出したけど、応えてもらえなかったことがずっとしこりになっていた。たまたま生き延びただけで、いつ道を外れてもおかしくない日々だった。どうしても嫌なこと、辛いこと、泣いても喚いてもどうにもならないことも全部自分が引き受けるしかなかった。その代わり嬉しかったことも人にしてもらったことも自分が頑張ったからだと思うようになった。

たくさんの人にお祝いされても、自分たちが頑張って信頼を勝ち取ってきたからだと思っていた。色んな人や周りの環境に感謝しなきゃいけないねと言われた時も、自分たちがそれに値する人間だからだ、それだけのことをやってきたからだと思っていた。でも色んな人に結婚を報告する中で本当に全員が喜んでくれて、遠い人も近い人も私たちに心を寄せてくれて、その気持ちを受け取るたびにこういう結果に落ち着けたのは自分たちの力だけではないのかもしれないということがゆっくり分かってきた。今までの人生をもう一度やれと言われたら死んでもごめんだが、このルートでしかこの人に出会えなかったのなら仕方ないかと思えた。それだけで充分だ。

運命の人とは思っていない。どこにでもいる2人だ。でも奇跡的に出会って付き合って結婚した。それだけのことがとても嬉しい。

婚姻届を出す日に、あらかじめ一緒に選んでいた結婚指輪を嵌めた。内側に日付を刻印していた。その日付を見て彼が「今日の日付が書いてあるね」とつぶやいた瞬間、胸が熱くなった。これがここまでの人生のハイライトだと思った。

朝起きたら2人であたたかいお茶を飲む。グータッチして仕事に行く。帰ってきたらご飯を食べる。寝る直前まで話している。ゆっくり家族になっていく。これからもずっと一緒にいる。

4/29

私は人生をかけて仲良くしていた友達と会えなくなる業を背負っているのかもしれない。3年前、友達を辞めた日。もうこの人生では会えないと言われた日。悔しくて悔しくて、あの時どう言えば良かったんだろうとずっと思い返していた。去っていく彼の後ろ姿が最後だと思わなかった。もう一度戻れたらなんて言えばいいんだろうとずっと考えていた。

もう一度戻れたら。

もう会わないって言われた、と泣きながら電話をかけた共通の友人が、そんなことを言ってきた。デジャヴかと思うほど同じ話で、デジャヴかと思うほど同じことしか言えなかった。こんなこと言って悪いと思ってるけどさ、と言いながら、その目はもう私ではなく違う女を見ていた。男女の友情なんて陳腐な論争に巻き込まれるような仲じゃなかったでしょ?私たちは、そういうのじゃなかったでしょ?と今度こそ言おうと思って、やっぱり言えなかった。やっぱりそうなんだ。人間と人間なんて思ってたのは私だけだったんだ。あの時泣きながら相談できた相手はもういない。私はこの話を誰に聞いてもらえばいいの、と言ったら、瞳が揺れていた。この年月を人質にするような真似をしたくなかった。この先の人生で私とその子どっちかにしか会えないならどっちがいいの?

もう一度繰り返してもお前のほうが大事だよとは言ってもらえなかった。どれだけ年月を積み重ねても、楽しいことも辛いことも共有しても、一瞬でゴミになる。

夜になっても晴れていて風が強かった。なぜかフロントガラスが濡れていた。

2/25

うまくいかない時に思い出す景色は馴染みのない薄曇りの雪の日で、朝なのか夜なのか分からない6畳間で泣いている。同じ部屋で悩むことに飽きて飛び出して、どんなに遠くに来たと思っても振り返ればすぐあの部屋に戻ってしまう。思い通りになったことのほうが少ないのに、きっとこれからもそうなのに、いちいちあの部屋に帰って自分を可哀想がるのがひどく惨めだった。2人だったのが1人になって、あの部屋にいたわたしを知ってる人がいなくなって、それでも自分だけがあの部屋の匂いを忘れられない。どうしてもどうしてもどうしても、どうしても上手くいかない。もう一度だけ自分の願いを叶えたかった。他人から見て恵まれていてもずっと嫌だった。願った場所にいない自分が許せなかった。望んだものを選び取りたかった。早くこんなこと全部忘れてその辺の大人みたいな顔をしてなんとなく生きていきたいのに、自分の中の何かが死んでしまうのが怖くて、それは若さとか悔しさとか名前がつくのかもしれなくて、あの悔しさを忘れたら今までの自分が報われないような気がして、自分で自分を脅してずっと辛い気持ちでいれば許されるような気がして、自分をずっと許したくて、ずっとずっと諦めたい。

7/25

あのとき私を救ってくれた男は間違いなくあいつで、あの鬱蒼とした六畳間で野垂れ死んでいても本当に不思議ではなかった。今毎日楽しいなんて人生で初めてくらいのことを言えるのも全てはあの時生きのびたからで、じゃあ裏切られたことが分かったあの日に私の大好きだったあいつは死んだんだと心から思えたらどれだけ楽だったか分からない。今まで生きてきて言われたことがなかったような言葉をたくさん言われてそんなことを言われたことがあるということを未だに心の支えにしていると気づいた瞬間、どうしていいか分からなくなる。他の男を好きになっても、あいつの中にいたたくさんの私もあの瞬間に同時に死んだのだと思い出させられる瞬間が何度もある。他人を信じるのが怖いなんて安い歌詞のようなことは言わないけど燃え盛る炎のような恋愛をすることはきっともうないのだとあれから冷たくなったまま戻らない心の一部が確かにそう言っている。何度もこんなことを繰り返して強くなるなら、あれがあったから今この幸せを感じるなら、そんなものいらないと思っていたけどもうはっきりとは言いきれないかもしれない。幸せになりたい。終わりなんて想像もつかないくらい幸せだとまた思いたい。忘れることを許せない。死んだのだからもう恨まない。でも私を返してほしい。

4/17

日記には鬱々とした気持ちを書かないといけないような気がするのはなぜだろう。浮かれるようなことがあっても記録に残すとそれが終わった時に辛いからだろうか。元来幸せに向いていない。

仕事と恋愛と生活の三本柱が、今完全にバランスよく立っている。どうせそう長くは続かないと思うので記録しておく。待ち続けたその日々の中にいることがとてつもなく怖い。時間が止まればいいのにと思う瞬間がこんなにすぐ来るなんて思ってもいなかった。今日はいい日でしたねと言おうとして、本当の私はこんなんじゃないと叫びたくなる。地べたを這いつくばって泣き喚いていないと自分じゃないような気がする。春の陽の中で微笑む私を愛されても困る。私、全然、そんなのじゃないのに。思うことが多すぎてよく分からなくなって、できれば今死にたいと言ってしまった。笑って流されて腹が立った。泣き喚く私も愛してくれ。でもあの日々にもう二度と戻らないなら、泣き喚く私にも会わなくて済むなら、そのほうが絶対いい。

このまま楽しくやっていきたいという気持ちと、今全てが終わったらいいのにという気持ちがいつも喧嘩する。生きている限りずっと私はこのままな気がして、まだ自分を許せない。

4/16

曇天を駆け回る雷をぼーっと見ていた。嫌でも感傷的な気持ちになる。

ドラえもんの声が代わってから19年というポストを二度見する。信じられなくてもう一度見る。年月が経つ速さを感じるにつけ、思えば遠くへ来たものだと唱えて考えないようにしていたけど、さすがに遠くに来すぎてしまったかもしれない。裸足にひっかけたクロックスに汗が滲んだ。来年のことが考えられないのは今も昔も同じだ。どうせすぐ辞めると思うことでしか日々を生きられない。そのままの君でいいと言ってくれた人は消え、生きてるだけでいいなんて言われて嬉しいか?と不思議がっていた昔の友達を思い出す。30も近くなってまだ自分の人生を引き受けられない。

また夜空が光って家に入る。好きなものしかないこの部屋も、逃げ出したい場所になってしまった。連れ去ってくれる誰かをずっと探している。

2024/04/12

寄せては返す仕事の波に激しく揉まれているまさにその最中、自分に全く非のないことで激しく罵られてしばらく心が停止した。自分に責がなくても怒られるのは怖い。途中から心臓がドコドコいって、受話器を握りしめている手が冷たくなるのが分かった。声が震えないように気をつけるなんて久しぶりの感覚だった。怒りの火に油を注ぐのが上手い自覚があるので言葉には気をつけて、しかしどちらかといえばこちらに非があるので平謝りするしかなかった。謝って済むと思ってるんですかなんて初めて言われた。謝って済むとは思っていないが謝るしかないので済ませてもらうしかない。あと本当は謝って済むと少しだけ思っている。当時対応した人がその場にいたので一瞬代わってもらおうかと思うが、代わったところで謝るしかないので自分が矢面に立つ覚悟をする。

10分ほど怒り続けたらさすがに疲れたようで、私も申し訳ありません以外の言葉を探すのに疲れ、しばし双方黙り込む時間があった。なんとか言葉を繋いで今後の対策について反省とともに提案する。口に出した瞬間自分でも良いこと言ったなと思い、そして相手も一瞬納得したのが分かったのでそのまま畳み掛ける。なんとか大事にならず切電(ガチャ切り)。悪意を真正面からぶつけられてどっと疲れた。今後も関わることが確定している人間によくあそこまで怒るものだと感心すらした。

1日嫌な気持ちを引きずっていた。でも心の底から出た言葉で納得してもらえたことが思いのほか嬉しかった。一番最後の希望は捨てられず、コミュニケーションを信じている自分をまた少し好きになった。