子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

4/17

日記には鬱々とした気持ちを書かないといけないような気がするのはなぜだろう。浮かれるようなことがあっても記録に残すとそれが終わった時に辛いからだろうか。元来幸せに向いていない。

仕事と恋愛と生活の三本柱が、今完全にバランスよく立っている。どうせそう長くは続かないと思うので記録しておく。待ち続けたその日々の中にいることがとてつもなく怖い。時間が止まればいいのにと思う瞬間がこんなにすぐ来るなんて思ってもいなかった。今日はいい日でしたねと言おうとして、本当の私はこんなんじゃないと叫びたくなる。地べたを這いつくばって泣き喚いていないと自分じゃないような気がする。春の陽の中で微笑む私を愛されても困る。私、全然、そんなのじゃないのに。思うことが多すぎてよく分からなくなって、できれば今死にたいと言ってしまった。笑って流されて腹が立った。泣き喚く私も愛してくれ。でもあの日々にもう二度と戻らないなら、泣き喚く私にも会わなくて済むなら、そのほうが絶対いい。

このまま楽しくやっていきたいという気持ちと、今全てが終わったらいいのにという気持ちがいつも喧嘩する。生きている限りずっと私はこのままな気がして、まだ自分を許せない。

4/16

曇天を駆け回る雷をぼーっと見ていた。嫌でも感傷的な気持ちになる。

ドラえもんの声が代わってから19年というポストを二度見する。信じられなくてもう一度見る。年月が経つ速さを感じるにつけ、思えば遠くへ来たものだと唱えて考えないようにしていたけど、さすがに遠くに来すぎてしまったかもしれない。裸足にひっかけたクロックスに汗が滲んだ。来年のことが考えられないのは今も昔も同じだ。どうせすぐ辞めると思うことでしか日々を生きられない。そのままの君でいいと言ってくれた人は消え、生きてるだけでいいなんて言われて嬉しいか?と不思議がっていた昔の友達を思い出す。30も近くなってまだ自分の人生を引き受けられない。

また夜空が光って家に入る。好きなものしかないこの部屋も、逃げ出したい場所になってしまった。連れ去ってくれる誰かをずっと探している。

2024/04/12

寄せては返す仕事の波に激しく揉まれているまさにその最中、自分に全く非のないことで激しく罵られてしばらく心が停止した。自分に責がなくても怒られるのは怖い。途中から心臓がドコドコいって、受話器を握りしめている手が冷たくなるのが分かった。声が震えないように気をつけるなんて久しぶりの感覚だった。怒りの火に油を注ぐのが上手い自覚があるので言葉には気をつけて、しかしどちらかといえばこちらに非があるので平謝りするしかなかった。謝って済むと思ってるんですかなんて初めて言われた。謝って済むとは思っていないが謝るしかないので済ませてもらうしかない。あと本当は謝って済むと少しだけ思っている。当時対応した人がその場にいたので一瞬代わってもらおうかと思うが、代わったところで謝るしかないので自分が矢面に立つ覚悟をする。

10分ほど怒り続けたらさすがに疲れたようで、私も申し訳ありません以外の言葉を探すのに疲れ、しばし双方黙り込む時間があった。なんとか言葉を繋いで今後の対策について反省とともに提案する。口に出した瞬間自分でも良いこと言ったなと思い、そして相手も一瞬納得したのが分かったのでそのまま畳み掛ける。なんとか大事にならず切電(ガチャ切り)。悪意を真正面からぶつけられてどっと疲れた。今後も関わることが確定している人間によくあそこまで怒るものだと感心すらした。

1日嫌な気持ちを引きずっていた。でも心の底から出た言葉で納得してもらえたことが思いのほか嬉しかった。一番最後の希望は捨てられず、コミュニケーションを信じている自分をまた少し好きになった。

2024/02/27

爆風スランプの大きな玉ねぎの下でという曲名をラジオのお便りで初めて知って、その次の日にまたテレビで見かけた。インパクトのある曲名だったので覚えていた。2回連続だったので気になって聴いてみたら武道館がテーマの曲で、東京に住んでいないのにそれが武道館の曲だとすぐ分かったのは、先週人生で初めて武道館にライブを見に行って同じことを思ったからだった。こういう偶然がたまにある。何の得をしたわけでもないけれど、生きてるってすごいなといちいち思う。意味があってもなくてもいい。こういうことをいちいち覚えていたい。

2024/02/25

どうでもいい夢ばかり見る。

人生を賭けた恋があっけなく終わってしばらく経つ。もう少し未練が残る予定だったが、驚くほどスッキリした気持ちの日が続く。通勤中の車内で、仕事終わりの風呂の中で、夜中のベッドで、いきなり号泣することもぱたりとなくなった。そうか。じゃあ良かったね。他人事のように思う。

人間はともかく、愛された記憶だけがなかなか消えなくて困る。昔言われたことを似たようなシチュエーションでふと思い出すと、さすがに一瞬胸が詰まる。仕方ないよ、と唱えて切り替える。仕方ないよ。あんなに好きだった人はもうどこにもいないから。

春はいきなり記憶の蓋が開くからよくない。不意に突き飛ばされたように思い出してしまう。思い出すことも忘れて私の一部になってしまったこともきっとたくさんある。それをギフトとは呼ばないけど、仕方ないから抱えて歩く。私は私と別れることはできないと泣いた日もあった。隣にいた人はもういない。私はここにしかいない。

2023/10/01

他人を信じてたつもりだったけど、いざ裏切られたら最初から信じていなかったような気がしてきた。いやそんなことはないけど、他人を信じてる自分を信じてもいた。二重に裏切られた気持ち。

秋風をたまに感じるようになり、毎年秋から冬はメンタルの調子が悪くなることを思い出す。秋は憂鬱だ。金木犀の香りがあまり好きではない。ある日を境にいきなり日が短くなり、また落ち込む。冬至まで息を潜めて暮らす。とてつもない寂しさに襲われて出会い系サイトを夜な夜な徘徊する。今すぐ誰かと話さないとおかしくなりそうな夜。

橘いずみの「失格」を繰り返し聴いている。夏の終わりを歌った曲は辛くなるのであまり聴かない。

明日が来るより怖いことを探す方が難しい。

12/20

仕事が終わって携帯を見ると、暗黒の学生時代を過ごした灰色の街から不在着信が入っていた。一瞬まさか大学か!?まだ何か用があるのか!?と身構えたけど、調べたら眼鏡屋だった。全く心当たりはないけど一応折り返してみた。1回なら間違いかなと思うけど2回かかってきてたから何かあるのだろうと思ったのだ。

さっき2回ほどお電話をいただいたようなんですが、と切り出すと名前を聞かれて、絶対違うんだけど、と思いながらも名乗ると、あぁ!〇〇さんね。眼鏡ができましたというご連絡でした。と言われた。

戦慄である。わたしの苗字は全国何百人くらいしかいなくて、今まで親族以外で同じ苗字の人に出会ったことがない。200キロも離れた街の眼鏡屋で遭遇するのはあまりにも怖い。心当たりがない旨伝えると、電話番号がこれなんですが…ともう10年使っている電話番号をスラスラと言う。思わず小さい悲鳴が出た。いや違います、いや〇〇ではあるんですけど、番号もそれなんですけど、でも違うんですと繰り返すと優しそうなおばちゃん店員もだんだん状況が分かったようであった。でももうお互いパニックで、どうしていいか分からず、ごめんなさいとかありがとうとかモニョモニョ呟いて電話を切るしかなかった。

今思えばせめてその人のフルネームを聞けばよかったけど、聞いたところで何かが分かるわけでもない。多分わたしではないのだから。多分?いや、確実に?

電話をかけたのは職場の駐車場だったのに、不意にどこか別の世界へ繋がってしまいそうな、足元がぐらつくあの感覚をまだ覚えている。