子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

12/20

仕事が終わって携帯を見ると、暗黒の学生時代を過ごした灰色の街から不在着信が入っていた。一瞬まさか大学か!?まだ何か用があるのか!?と身構えたけど、調べたら眼鏡屋だった。全く心当たりはないけど一応折り返してみた。1回なら間違いかなと思うけど2回かかってきてたから何かあるのだろうと思ったのだ。

さっき2回ほどお電話をいただいたようなんですが、と切り出すと名前を聞かれて、絶対違うんだけど、と思いながらも名乗ると、あぁ!〇〇さんね。眼鏡ができましたというご連絡でした。と言われた。

戦慄である。わたしの苗字は全国何百人くらいしかいなくて、今まで親族以外で同じ苗字の人に出会ったことがない。200キロも離れた街の眼鏡屋で遭遇するのはあまりにも怖い。心当たりがない旨伝えると、電話番号がこれなんですが…ともう10年使っている電話番号をスラスラと言う。思わず小さい悲鳴が出た。いや違います、いや〇〇ではあるんですけど、番号もそれなんですけど、でも違うんですと繰り返すと優しそうなおばちゃん店員もだんだん状況が分かったようであった。でももうお互いパニックで、どうしていいか分からず、ごめんなさいとかありがとうとかモニョモニョ呟いて電話を切るしかなかった。

今思えばせめてその人のフルネームを聞けばよかったけど、聞いたところで何かが分かるわけでもない。多分わたしではないのだから。多分?いや、確実に?

電話をかけたのは職場の駐車場だったのに、不意にどこか別の世界へ繋がってしまいそうな、足元がぐらつくあの感覚をまだ覚えている。