子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

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2年勤めた会社を退職することになり、今日が最終出勤日だった。

辞めると公表してからみんなが優しくて複雑な気持ちになった。いつもそうしてくれよと思った。でもたぶんそれが当たり前なんだろう。あんなに泣かされた上司なんか特に腹が立つほど優しくて、こいつに辞めさせられたんだという気持ちにすらなりかけた。上司さえいなければまだまだここで仕事ができたのに、とか。


たまたま見つけた試験をなんとなく軽い気持ちで受けただけだった。なのに一次試験に受かって以降、会社を辞めたくて仕方がなくなった。あまり考えないようにしてたのに辞めたい気持ちが抑えられなくなっていた。二次試験に落ちても前と同じ気持ちではもう働けないと思った。

辞めるその日を想像すればするほど愉快な気持ちになって、つまらんことで上司に怒られている自分はまだまだどこにでも行けるんだと必死で思い込んだ。


そしてようやくやってきた今日は、入社したあの日と同じ雨だった。


ペアで毎日一緒に働いてた、親と同じ世代のおばさんに寂しくなるねと泣かれて、それを見てもう一人のおばさんが「〇〇さんが泣いてるの初めて見た」って言いながら泣いて、それを聞いてわたしも泣いた。少し後悔しそうになった。

でも小さいあの会社では仕事内容が頭打ちだったり、業界に深く根差した男尊女卑にうんざりしてたり、助けてくれないおばさんたちを恨んだり、わたしを横目にちやほやされてる先輩が羨ましくてたまらなかったり、いろいろなことがあった。もう限界だと思ったことも何度もあった。何よりもう上司に怯えたくなかった。自分以外の人にはちゃんと対応する上司を見て惨めな気持ちになりたくなかった。ちょっと他のことやってみたいな、違う環境に行きたいなと思って行動した。自分で悩んで決めて辞めたんだった。

頑張っていたのを見てくれた人がたくさんいたことはとても嬉しかった。でも、嫌だった気持ちを忘れないでいようと思った。


わたし以外の誰かになれたらよかったなんて、もう思わない。