子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

3/21

 

気がつけば風はすっかりぬるくなって、嫌でも季節の移り変わりを意識せざるを得ない。来たこともない街にこれから住む人間を目の前に、かけられる言葉はそう多くはなかった。

青春と名付けるに相応しい時を持たないと思っていた。だが気づけば背負っていた10代という肩書きが20代に変わる間になんとなく気の合う仲間と過ごした時間はそれなりにあって、納得いかないものだとしてもそれをそう呼ぶしかないのならこんなわたしにも確かに青春はあったのだった。しかし納得いかないからこそ、自分だけのその一瞬をまだ追ってしまう。ここではないどこかに行けばきっと、と、そればかり考える青春時代だった。

生きていくには金がかかる。新たな門出と言うにはあまりに静かな春はもう目前で、わたしの未練ごと背負わせることがないように慎重に言葉を選んだ。羨ましくないと言えば嘘になるが、どうせわたしの青春はここにはない。手にするその時を夢見て、車のドアを閉めた。見知らぬ街の角を曲がれば唐突に人生は別れる。そもそも今までも交わりこそすれとっくに違う人生だったのだ。雨に煙るビル群をウィンドウガラス越しに眺めているとだんだん視界が曇って、誰にも悟られないようにそっと拭った。早く遠くに行きたいと祈りながら目を閉じた。あの街で見た桜並木はもうほとんど散っていた。