子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

ガラス編

最近短歌を詠むことより文章を書くことにはまっていて、突発的に、人の短歌を文章にしたり、文章を短歌にしてもらったりする企画を思いつきました。第一弾は.原井(根本博基)さん(@Ebisu_PaPa58)と!『布』と『ガラス』という2つのお題を決めて、『ガラス』をテーマに書いた文章に、原井さんが短歌を詠んでくれました。原井さんのブログでは『布』で原井さんが詠んだ短歌を文章にしてますので、そっちも読んでね。ぜったいね!→ http://dottoharai.hatenablog.com/entry/2017/05/26/202720

 

 

ガラス/ねん

24色の色えんぴつしか知らなかった。世の中の色はそれで全てだと思っていた。24色どころじゃないのを知ったのは、子どものころ旅行先でステンドグラスを見た時だった。名前も知らない色がたくさんあった。この果てしない模様はいったいどこから作るんだろう。何が描かれているのかはわからなかったけど不思議と惹きつけられて、心の片隅にずっと残っていた。

ある日街を歩いていると小さな喫茶店を見つけた。なんとなく入ってなんとなく着いた席の、その窓だけ、ステンドグラスだった。ああこれに呼ばれたんだ、また会えた、と思った。それからそこは私の指定席になった。
その日いつものようにあの喫茶店に行って、店のドアに貼られた貼り紙を見て、閉店したことを知った。何かがあったのか店内は荒らされていて、窓もたくさん割れていた。ふと色とりどりのガラスが目についた。これは、もしかして、いや、もしかしなくても。思わずかけらを手にすると、鋭い痛みが走った。手から落ちたガラスが地面にぶつかってさらに粉々に割れた。青色のガラスで手を切ったのに、赤い血が流れるだけだった。緑色のガラスで太陽を透かしてみたけど、太陽は月にはならなかった。ずっとずっと、別の世界へ行きたかった。あの喫茶店でコーヒーを飲む間は、ステンドグラスの中に入り込んでいる気がした。こんなつまらないわたしでも、わたしにしか出せない色があると、ステンドグラスの無数の色のうちの一色になれていると、信じていた。なくなってからしか、気付けなかった。
赤色のガラスを目にかざして、家への道を歩いた。大きな水たまりを踏んで、思わずガラスを落とした。赤い小さな世界のかけらは、真っ赤な水たまりに沈んでいった。

 

 

 

ステンドサングラス/根本博基

古道具屋にはステンドサングラス わたしを待っていたかのように

退屈な世界を鮮やかに変える それは素敵な七色眼鏡

悲しみも鬱もステンドサングラス越しにきらきら光るきらきら

だけどこれだけはステンドサングラス 直視するべきモノクロなのに

捨てたはずなのにステンドサングラス 今日も視界はこんなに虹色

夢だけがくるくる狂う舞い踊る それは呪いの七色眼鏡