子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

生ぬるい風に頬を撫でられて、春の終わりに気付いた。家に帰ってTシャツを引っ張り出してみた。去年洗濯をしすぎたのかどれもこれもぶかぶかで、着てみたらお兄ちゃんのお下がりをもらった中学生のようになってしまった。とがった肩に、真っ平らな胸。もともと太っている方ではなかったけど、最近さらに痩せた気がする。化粧っ気のないわたしの、素朴なところが好きだよって、あれは本当だったのかな。やっぱり髪がふわふわで、真っ白な肌の、抱きしめたらいい匂いがするような女の子のところに、行ってしまったんじゃないのかな。
なんとなく髪を切りたくなって、失恋したからってわけじゃないけど、と心の中で言い訳をしつつ、(でも美容師に失恋でもしたんですか?と聞かれた)ばっさり切った。そしたら昔空けたピアスがよく見えるようになってしまった。おまけにこれからの季節、半袖になると左手の火傷の跡が見える。ショートパンツを履くと、太ももの古傷が見える。忘れてた。でも、そうだった。
写真を見なくたって、手紙を読み返さなくたって、わたしのこの体が、もう歴史なのだ。笑いあって空けた穴は塞げない。一度付いた傷は消えない。あの傷もこの傷も全部、いつどこで付いたものか言える。忘れても忘れなくても、ここにはただ歴史だけがある。
やがて夏が終わり、秋が終わり、冬が終わり、春が来る。求めた未来はすぐに過去になって歴史に変わり、わたし自身になる。

そうやって、生きていく。