子守唄

ねんねんころりよ おころりよ

そして夏

昼寝から起きて、喉が渇いたので水を飲もうと思った。水道水はぬるいので冷蔵庫のお茶を飲もうと手をかけたところで、昨日飲みきってしまったことに気がついた。キンキンに冷えたものを体に入れたくて、太陽に照らされながら近くの薬局まで出かけた。お茶かスポーツドリンクかで迷って、なぜかアイスを買っていた。
家までアイスがアイスの形を保っていられるか不安だったので、袋をあけてかじりながら歩いた。アパートに帰る途中の道には田んぼがあって、実家の近くに雰囲気が似ているので好きだった。あと1ヶ月でお盆か、早いな、今年は新幹線で帰ろうかな、とぼんやり考えていたらアパートに着いた。階段を登ろうとして、ふと田んぼの向こうを女の子が歩いていくのが見えた。母校の制服を着ていた。青いシャツに、特徴的なチェックのスカート。瞬間、自分がどこにいるのか分からなくなった。地面がぐにゃっと歪んだ気がして、あんなにうるさかった蝉の声が遠く聞こえた。
思わず道路に飛び出した私のすぐ目の前を、轟音とともにトラックが通った。思わず足を止めたその間に女の子はいなくなっていて……なんてことはなく、女の子はまだちゃんと田んぼの向こうを歩いていた。2,3歩追いかけて、微妙にスカートのチェックの色が違うことに気がついた。よく見たらシャツの形も少し違う。そりゃそうかとひとりごちて、アパートに向かった。こんなとこにうちの高校の子がいるはずないよなと思って、それにしてもよく似てるなともう一度だけ振り返ったら、女の子もこちらを見ていた。目が合って、女の子がうっすら微笑んで、えっと思った瞬間にくるっと向きを変えて、すたすたと歩いて行ってしまった。世界が数ミリずれたような違和感を抱えながら部屋に入って、テレビをつけるとちょうど好きな番組が始まるところだった。そのことに気を取られ、さっきのことなどすぐに忘れてしまった。

 

あの時ずれた世界が なんとなく元に戻らない。